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秋顧客に求められる印刷会社像を目指して
潟hキュメント・エンジニアリング研究所 寺澤 晃



印刷業が社会に求められる役割

 印刷需要は景気が回復すれば以前と同じように戻ってくるのでしょうか。残念ながらその答は「NO」と言わざるを得ません。時代の変化を牽引するIT革命とは,社会のあり方を変革させるものであり,ビジネス構造が変化すれば,印刷のあり方も変化するのは当然なのです。
 また,情報を相手に伝達すること,自らのコンセプトを周りにアピールすること,ビジネスや商品を紹介すること,ルールを明示すること,印刷物とはグーテンベルグの印刷技術発明以来の500年間,この唯一の方法であると考えられてきました。しかし貴方の周囲をご覧下さい。オフィスでは1人1台パソコン化が進展することにより,インターネット・Web利用による情報のやりとりも急速に進展し,TVもデジタル化により,その双方向性も実現する時代となりました。
 現在の景気低迷は,これまでの国や大手企業といった上部構造から情報・知識が示され,それに従う構造によるビジネスモデルの限界が示された結果です。この時代であれば,一元的な情報でビジネスは成立し,大量複製メディアの印刷物でツールはOKでした。しかし時代は発想が逆転し,Webオークションサイトや楽天市場などのWeb通販サイトが活況を呈していることをみれば明白なように,個人一人一人がニーズを示し,自ら社会構造やビジネスをコントロールする時代へと変化しています。
 つまり印刷物のような片方向のコミュニケーションのみではなく,Webを利用した新たなコミュニケーションを付加したビジネスモデルが求められる時代が現在であり,このビジネス創出に悩む顧客に対して,情報編集支援業である印刷業が,様々なメディアへの対応力を示し,顧客とともにビジネスを新たに生み出していくこと。いわば「知的な付加価値デザイナー」としての存在こそ,印刷業の新たな生きる道となります。
 「情報編集」というと難しい言葉に捉えられるでしょうが,これは印刷業が得意としてきた力です。コンピュータ業の多くは顧客の業務を単純に自動化するところでビジネスを行なっています。しかし印刷業が取り組む情報編集とは,はるかに知的なノウハウに基づく技術です。印刷業は,顧客の訴求点を引き出し,伝えるべき内容を明確化し,その対象に応じた情報編集を行なった結果,パンフレットやカタログなどをデザインという付加価値によって出力してきたわけです。つまり顧客に成り代わり,ビジネスを目に見える形にする役割を担うという顧客に最も近い存在こそが,他ならぬ印刷業だったのです。

顧客の問題解決サポーター

 印刷業低迷期でも成長を続ける印刷業経営者とお話をすると不思議なことに気付きます。それは取り組む特化テーマは異なっても,企業経営コンセプトが共通していることです。

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 経営者は,「わが社は顧客の問題解決応援団である。」「社会の便利屋・雑用係である。」「ビジネス課題を解決するサービス業である。」「顧客とのコンテンツを通じたビジネスパートナーである。」と語っています。つまり「印刷物を下さい!」と,自社の製造現場がまわる事だけを考え,それを顧客に対して無理強いしているわけではないということです。
マーケティングの原則論から考えると,戦う武器と最終的に企業として求める目標は別に示すべきものとなります。この場合の武器とは,あくまでも顧客の視点に立つものであり,顧客の課題解決というサービス業的な要素に他なりません。そして最終的に求める目標,つまり現状における貴社の利益の源泉は,もちろん印刷物を受注することでしょう。
しかし多くの印刷業は,自社の設備や技術を武器として「他よりも安くできます。」「他よりも高品質です。」と営業アプローチしています。はたして顧客はこれを求めているのでしょうか。
一時代前のように印刷メディアのみの時代であれば,これが大きな武器でした。しかし様々なメディアが選択可能な現在において,顧客は「そのツールで本当にわが社のビジネス成果が生まれるのか?」とのビジネスモデルで評価をします。これに対して印刷業はどんな対応をなすべきなのでしょう。

本当にこの印刷物が必要なのか?

 ある印刷会社ではこんな取り組みをしています。それは,毎月の営業会議において,各営業マンがその月に受注した印刷物から1点を選び,客観的な視点から「顧客にとって本当にこの印刷物は必要だったのか?」「このような印刷物で顧客ニーズに応えることができたのか?」とのレポートを発表する取り組みです。この会社では「顧客はそのビジネスのプロではあるが,メディア制作のプロではない。そこで最適なメディアが提供できたのかは印刷業が検証しなければならない。」という観点から,これを取り組んでいます。
 また「顧客の視点に立った改善提案を1案件について1つ行なうこと!」を目標に営業活動を行なう印刷会社もあります。原稿の取り纏めから入稿,部数の確定,デザイン・形態,納品方法,他の印刷物への原稿データの利活用など,改善提案を行なうテーマは山ほど潜んでいるとこの会社の経営者は語っています。
顧客のビジネスモデルづくりを、顧客のパートナーとして取り組む必要性について述べましたが、それはこの改善提案の積み重ねの結果として導き出されるものです。よく考えてみて下さい。原稿の取り纏めから入稿とは,顧客のビジネス上生まれるコンテンツを編集するというビジネスの幹につながり,部数やデザイン・形態,納品方法とは,顧客のビジネスの規模や取り組み方に関わり,他の印刷物への原稿データの利活用とは,顧客の手間を省くビジネスの効率化につながります。それだけ顧客のビジネスと印刷業は密接な関係にあるのです。

顧客は困っていることを認識できていない!

 提案営業の教科書には「顧客のニーズに対応しましょう。」と書かれています。そこで貴社の営業マンも懸命にこの顧客のニーズを追いかけることでしょう。しかし顧客に対して「何かニーズはありませんか?」と直接的に問い掛けると「誤字が多いのをどうにかしてくれないかな…」「難しいことはいいから,納期だけ守ってよ!」と足元のことで墓穴を掘ることが多々あるのではないでしょうか。
 では,顧客ニーズを探るために「ニーズは何ですか?」と聞いて答が導き出されるものでしょうか。答は「NO」です。顧客自身は新たなメディアが登場する中で,自らのビジネスのあり方に迷っています。しかも印刷・メディアに関するプロでもありません。このような相手に対して「ニーズはありませんか?」と問い掛けても,顧客の視点は足元の瑣末な問題も留まり,本質的なビジネスニーズを浮かび上がらせることはできません。
では印刷業はどうすればよいのでしょう。それは顧客に対して潜在ニーズを気付かせるための貴社としての商品・サービスメニューを明確に示してあげること,プレゼンテーションです。例えば,大学のシラバス(授業計画)が目標あれば,「シラバス入稿・編集事務を効率化と電子化対応を目指したシラバスデータベースサービス」など,具体的な理想像を示し,業務の中で発生し得る顧客の課題に貴社がどのように対応し,その解決に導いていくのか,一連のフローを示してあげること重要です。そのフローに即して,1つ1つ「こんな課題もありますよね!」と示すことにより,「そうそうそこに困っているんだ!」と顧客のニーズは自ずと顕在化してくるわけです。
しかし、その商品・サービスメニューの枠を顧客に押し付けることは避けるべきです。あくまでも準備したフローはその理想像です。顧客の業務や組織,規模などから,どの顧客にもそのフローが合致するわけではなく,貴社のコンセプトとあくまでも顧客ニーズを引き出す基準としての第一歩の提案と考え,そのフローと現実の提案先顧客のフローを比較し,その顧客が第一に解決すべき課題テーマを発見するたたき台と位置付け,具体的な次の提案につなげることが,新規需要開拓へとつながっていきます。ここが見込生産型の一般製造業と異なるところであり,だからこそ受注生産の印刷業の醍醐味であるとも言えます。
このような関係の中で,新たな貴社のビジネスは生まれます。そして顧客のビジネスも発展していきます。これにより貴社は顧客から「貴社がいなければ,わが社のビジネスは成り立たない!」と絶大な信頼を得ることとなり,顧客とともに自らも成長するシナリオを描くことができるわけです。

事例に見る印刷業特化戦略

 では,この顧客の視点で生み出すビジネスモデルで成長を続ける印刷会社を事例として考察してみましょう。
それは東京・墨田区において病院に特化したビジネスを継続発展させている潟Cステムジャパンです。

1.医療伝票からの出発(第1ステップ)

 同社は前社名の石川印刷工業且梠繧謔閨C伝票専業の印刷会社として取り組んできました。しかし受身の伝票ビジネスでは,発展は期待できず,自社で受注する伝票の印刷物を分析することから,その企業発展のシナリオはスタートしました。
 まず当時受注する伝票を石川社長(現会長)は徹底的に分析しました。「これからも残る伝票は何か?」「付加価値が高く成長性が期待できる伝票は何か?」この観点から発見したものが,医療機関における臨床検査伝票でした。
 当時の病院における臨床検査の状況は,院内検査が主流でしたが,その効率化を模索する流れの中で臨床検査会社への検査のアウトソーシングが始まった頃であり,臨床検査会社も増加する時代でした。そこで同社の顧客であった1社を対象として、臨床検査伝票にかかる業務改革を何としても成し遂げるべくプロジェクトはスタートしました。
 臨床検査伝票は複雑な構造の伝票です。これらは医療分野の専門語による薬品名や検査項目が指示された伝票であり、一字一句の間違いも許されません。このため、当時の印刷会社は、病院や検査会社に完全な文字原稿を求めていました。しかし相手は多忙な方々です。発注サイドとしては「原稿作成に手間取っていては、他の仕事ができない!」と、この厄介な原稿作成の手間をどうにか解消できないか、と悩んでいました。
そこで同社が最初に取り組んだテーマは、原稿作成を効率化するシステム構築でした。すなわち、検査伝票に収録されるすべての薬品名や検査項目にコード番号を付与し、それをデータベース化しました。これによって、検査伝票の詳細な文字原稿は不要となり、顧客に対しては、「必要項目をコード番号で指示してください」というだけで済むわけです。
 このデータベースシステムは約20年前の当時としては画期的なものであり,電算写植システムへ直結するこの自社開発の組版システムによって自動組版対応にも対応でき,「どの印刷会社よりも早く,安く検査伝票が印刷できる」体制が生まれ,特化し,差別化したビジネスモデルを構築することができました。
 また同社は検査伝票の各病院における在庫管理にも注目しました。病院では、伝票以外にも数多くの医療材料をストックしており、その在庫管理と適正な発注が現場での大きな課題でした。そこで同社では,病院ごとに受注する検査伝票を調べ,発注枚数と期間から,月あたりの消費予測枚数を算出し,「その伝票がいつなくなるのか?」を把握して,病院からの発注なしでも伝票を補充納品できる仕組みを構築しました。この結果、事前予測結果から伝票の計画生産ができるとともに、病院サイドにとっても、ミス・ロスの発生が軽減するメリットを生み出しました。
 次に取り組んだのは、検査伝票のカラー化提案でした。4色機の導入とともに、効率的な生産体制を他に先駆けて構築しました。
カラー化とは、血液等を保存する検体容器の蓋と検査伝票の項目の色を揃えることにより、採血現場におけるミスを生まない意味があります。そこで同社では、検体容器の色に合致し、しかも印刷上においてモアレが発生しないプロセス指定色をカラーチャート化して病院へ提案。色についてもコード番号のみで指示できる体制を構築しました。
また,こうして培われたノウハウから、結果として他の臨床検査会社をも顧客に取り込んでいきました。
 しかしこの段階で、同社の展開にも悩みが生まれました。これまでは印刷業としての技術力によって、顧客の潜在ニーズを1つずつビジネス化してきましたが、検査伝票という顕在する印刷商品の範囲では、生み出すことができる付加価値にも限界がありました。そこで同社では、これまで培われた独自の技術であるデータベース力に基づく組版ノウハウと、短時間・低コストで少ロットの検査伝票に対応できる4色印刷ノウハウをもととし、異なる印刷分野への進出を試みました。しかしその結果は、競合他社がうごめく価格競争の世界にはまり込むこととなり、これまでのノウハウを活かす場面を見出すことはできませんでした。
 そこで同社ではもう一度原点に立ち戻り、病院という最も奥深いビジネス規模を持った顧客に対する接点を開拓すべく焦点を定め、あらためて病院支援ビジネスを目指すこととしたのです。

2.病院の総合的なビジネス支援業として生きる(第2ステップ)

 病院という顧客の窓口は事務部門です。そこで,これまでの印刷技術力の観点から行なう支援に拘ることから一端離れ、この事務部門の課題を解決するお世話役として、関連会社の潟lクサスを設立し、幅広く医療コンサルティングにかかる事業をスタートさせました。
 病院ビジネスの世界でも、介護サービスなどの新たなテーマが生まれ、しかも競争が激化する中で、既存ビジネスの検証と新たな取り組みが不可欠な状況となっています。そこで同社では、病院の事務長経験者(現ネクサス社長)を招き入れ、病院のマーケティング、事業収支計画、新たな機器導入、病院運営改善などをテーマに、公的機関・金融機関への融資資料作成まで含めたコンサルティング事業を本格的に取り組みました。
 病院ビジネスの活性化を図る取り組みとして、例えばマーケティング支援では、診療圏におけるエリアマーケティングシステムを構築し、人口動態や年齢別疾患別患者動向などを分析し、診療科目の検証や事業収支シミュレーションなどの結果を、新規・既存病院の事業計画立案につなげています。
また病院の医療材料などの物品管理については、これまでの検査伝票のノウハウも付加し、職員の手間を軽減する運用システムの実現を目指しています。さらに、決算数値をもととする病院経営分析まで、客観的視点においてアドバイスすることにより、病院の事業発展をサポートしています。
そして,このような活動の先には、病院建設というテーマも生まれます。そこで、同社は病院の建替などのニーズに対応するため、平成10年に設計事務所も設立しています。この他にも、現在では什器備品や医療用設備・機器の販売にも対応し、伝票のみならず、あらゆる病院運営の困り事に対応できる商品とサービス事業メニューを同社では充実させてきています。
 ここまでいくと読者の中には「これはすでに印刷会社ではない!」と思われる向きもあることでしょう。しかし現在でも同社の売上の6〜7割は印刷物が占めています。「新たな病院が生まれる!」そこには様々な種類の印刷物が生まれます。そこで,同社が得意とする伝票はもちろん,病院を案内する診療パンフレット,診察券・カード,病院のロゴにかかわる各種サイン・看板,そしてホームページなど,これらもすべて同社では,サービスメニューの一環として受注し,総合的に対応しています。
 また今後は医療材料販売を展開する大手商社の営業・物流ルートを活用した全国の病院への伝票販売ビジネスの構築も目指しています。病院という価値ある顧客を見定め、当面の印刷物にこだわることなく、徹底的に顧客を支援する視点に立脚しつつ、様々なビジネス場面へと取り組みを拡大することにより、同社は大きな成功を手に入れることができたわけです。

変革期の特化戦略とは!

 印刷業が特化した分野で成功するためには何が必要なのでしょう。潟Cステムジャパンの成功からもわかるように,顧客のビジネス変化に対応した商品・サービスメニュー提供を継続することがその答となるはずです。では,顧客のビジネスが変化する大きな要因とは何でしょう。それは規制緩和・法律改正などによる顧客のビジネス体制の変化です。
規制が緩和されることにより,外資や異業種企業がそのビジネスに進出してきます。これら新規勢力は,これまでのビジネスモデルに拘らず,新たなビジネスモデルをもととした組織・事業運営でそれを取り組みます。その結果,そこから生まれる印刷物は,その種類も内容もまったく異なるものとなり,しかも中には印刷からWebなどへ代替されるものも生まれます。また法律改正が実施されれば,表面的にそれを示す必要がある印刷物のみならず,顧客の業務フローや組織自身も変革が求められ,あらゆる印刷物の生まれる過程が変化します。
 さて,「貴社ではこのような顧客の変化にどのような対応をなされますか?」「変化の結果を顧客から示されるまで,ひたすら待ち続けますか?」変化とは顧客の課題が表面化する重要な時です。そこでその課題をいち早く印刷業が知り,それに対応する印刷物周辺の支援メニューを印刷業自らが提案すること,これが成功へのカギにつながります。
 ビジネスの成功とは,営業主導権を自らが握ることにあります。受身であった印刷業にとって,これまで主導権はすべて顧客側にありました。そこで顧客の発注を待たなければならず,しかも競合他社との激烈な価格競争の中で生き抜くことが求められました。またどれだけ苦労があっても,顧客からは他大勢の印刷会社と同じ扱いを受けることになり,自らの力ではビジネス変化は不可能な状況にありました。しかしこの営業主導権を印刷業が握るチャンス,これが顧客のビジネス変化の時,つまり今なのです。
 貴社では,顧客業界においてどんな法律案が国会で審議され,施行されようとしているのか把握していますか?貴社が特化戦略で成功するためには,どの印刷会社よりもいち早くその変化を知り,顧客の業務改革や新たなビジネスモデルに対応する印刷商品・サービスメニューを常に生み出すことが不可欠です。
 変化の時代,顧客はビジネスパートナーを求めています。その中で顧客のビジネスを知り,情報を編集し,メディアを生み出してきた印刷業がその最も近い位置に存在します。社会の変化によってこれまでの印刷ビジネスが成立しないと嘆くよりも,変化の時だからこそ,変化を知り,顧客とともに成長するビジネスのシナリオを,いま描いていこうではありませんか。

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