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XMLをツールに情報化支援



日本印刷新聞 2003/07/30(水曜日) 掲載

 XMLビジネスが見えないという声を聞く。たしかにXMLを活用した印刷業のビジネスモデルはあまり見当たらない。しかし、XMLは情報化の様々なシーンで採用され始めているのも事実である。たとえば印刷工程を経営情報まで含めて統合するJDFもXMLを採用している。この例をみてもXMLがこれからの印刷産業にとって大きな影響力を持つ情報技術だということが分かる。印刷業界とも縁が深い、潟hキュメント・エンジニアリング研究所の西村健社長は、コンテンツを扱う印刷業こそがこれからの社会、知識化社会の支援者にふさわしいと話す。西村社長と寺澤晃取締役に、印刷会社がXMLをどう捉えるべきかを聞いた。
【聞き手・河内英成(日本印刷新聞社)】


地域情報産業の主軸に

−XMLがなぜ必要なのか、印刷業者としてどう考え、どう取り組んだ方がよいのかをお話しいただきたいのですが、まず全般の環境へのお考えをお聞かせください。

西村社長 これから話す内容はどちらかというと地方の印刷会社向けのものになると思います。
 まず、XMLについて話す前に、前段として説明しなければならないことがあります。それは、今のIT革命や「e-Japan戦略」などと言われる中で、なぜ日本の社会が構造的に改革されないかという点です。それは一言でいいますと、情報化の捉え方が、まだ第一段階から進んでいないからなのです。
 e-Japan戦略では明確に定義を出しています。それは 「知識創発社会」という言葉です。しかし、人と組織と社会の在り方を、「知識=情報」によって抜本的に変革すると提示されているにもかかわらず、具体的な戦術として説明されているのは電子政府や電子自治体であり、この中身を見ますと、単なる従来の手続き処理を電子申請で行うことだけが電子政府であるといった誤解が伝わってしまっています。
 「物づくり日本」ですから、物のイメージがないと分かりにくいという面があって、このような説明をしているのでしょうが、これでは、言っていることと、やっていることが異なります。
 情報化や知識化とは、従来の物づくりのみの生産方式を、知的な価値生産にシフトしなければなりません。そうなりますと、扱うコンテンツの問題となってきます。つまり、コンテンツ社会になっていかなければならないわけです。ところが、情報化=コンテンツが重要だと、大々的には誰も言っていません。
 また、コンテンツが重要になる中で、情報知識がどのように生産され、流通するようになればよいのでしょう。それにはいろいろな仕掛け、仕組みや教育、研修を含めたコンテンツを扱うためのマネジメントカに焦点をあてていかなければなりません。しかし、この点も、誰もそう言っていません。
 知識創発社会とは正しい目標です。そこへ至る一番よい方法は、企業の情報やコンテンツ、地域の情報やコンテンツを皆が活用できるようにすることなのです。具体的なコラボレーション(協働、連携)ができるために情報・知識を皆が利用できる形で提供し、それを支援する。この「支援する」というのがキーワードです。知識が創発されるために、人々が知恵を出し合って活動することが協働ということですが、そのときに知識が扱えなければどうしようもないわけです。そのための技術として、XMLが登場しているのです。

知識を誰もが扱える社会へ 

−XMLは社会を知識と知恵の流通する社会にするために登場したということですか。

西村社長 XMLがそういった使命を帯びて登場しているというのは歴史の上で必然的です。1945年にアメリカ国防総省のバネバー・ブッシュ博士による、知識を無限に蓄積し、それに関連付けを行って、知識と知識が関連付けられた情報として蓄積できる機械を生み出そう(MEMEX構想)という構想から情報化は始まりました。
 当時アメリカは第二次世界大戦の渦中にあり、国防総省は六千人もの科学者を抱えていました。その総帥がこのバネバー・プッシュ博士です。戦争が終わり、博士は次の目標を、知識を皆が扱える社会を築くために貢献することと定め、そのテーマとして「知識を関係付け、いつでも利活用できること」と示しました。
 このコンセプトは素晴らしく、その後も生き続け、結果、コンピュータ上で知識を関連づけて利用できる技術として登場したのがXMLの兄として存在するSGMLです。これは1980年代から実用化が進みましたが、その普及には簡単に皆がネットワークで利用できる仕組みが必要であったことから、インターネットの登場を待たなけれはなりませんでした。そしてインターネットが今から十年位前に一般化し、SGMLをインターネットに乗せて利用することが考えられ、XMLが生まれたのです。
 つまり、時代も技術も、一貫して流れています。知識を関連付け、忘れないためのガイドとし、必要な時に取り出して、それに新しい知識が関連付けられる。情報を使い回すこと、そのためにXMLが必然的に登場してきたわけです。
 ですから、米国ではこのような思想の上に科学技術者が開発してきたわけで、皆その意味も、値打ちも分かっています。しかし日本では「物づくり」のために情報技術を使ってきましたから、知識を関連づける発想が一般化されません。
 定型処理をコンピュータで最適なシステムにすることに対し、日本人はうまいのですが、人々がコラボレーションし、それに参画する人々が専門知識をつないで串刺しにしていくことが知識創発につながるわけですから、例えば市民に対する行政活動としても、国土交通省だけでできるわけではなく、文部省の教育問題も必要であり、環境省の環境問題も必要だというものを繋ぎ合わせることで英知が創造できるわけです。このような「繋ぎ合わせたネットワーク型のコラボレーションを支援するための情報技術」の開発にもまだ誰も焦点を当てていません。

−それはなぜなのでしょうか。

寺澤取締役 つまり日本は中央集権、縦割りだったからです。中央集権型とは各省庁から施策などが縦割りで降りてくるわけです。そして地方自治体は、住民に対する支援のために存在したのではなく、単に国土交通省から建設部、農林水産省から農林水産部、と縦割りに国の施策を住民に降ろしていただけなのです。
 これまでは地方自治体内部における横連携ネットワークなど必要ありませんでした。つまり、コラボレーションを支援するために情報知識を利活用するシステム開発などもありませんし、当然国にもそういったシステムはありませんでした。
 行政改革とは、中央集権型をネットワーク型に変革することです。分権型国家構造とは、ようするに住民本位であり、自分の地域の問題は自分達で解決するため、ネットワーク型で繋がるような地域構造にしようと考えています。つまり縦から横連携にすることです。しかし、まだ政府も具体的な方策を示す状況になく、自治体も今までどおり中央から降りてくる施策を待つ状況で、これでは進むものも進まないといわざるを得ません。

新たなマネジメント力が不可欠

−住民本位の地域づくりというのはどういったことなのでしょうか。

西村社長 地方こそがこれからの主役です。そこで縦割りではなく、知恵を集めるコラボレーションの場が地域の中に求められます。そのためには、縦を横に変革するだけの新たなマネジメント力が不可欠です。それは「新たな社会のコンセプト」「実現のための技術・ツール(XMLなど)」 「理解普及のための研修」の「三位一体」とわれわれは考えています。そして、この三位一体を支援する役割が、ドキュメント・エンジニアリング研究所の使命であると考えます。
 印刷業とはコンテンツを扱う産業です。しかし、従来の縦割社会で生きてきたコンピュータ産業はコンテンツを扱うことが苦手です。そこで、印刷業こそがコンテンツを扱う情報化、つまり知識化社会の支援者にふさわしい役割なのです。地域で身近な情報知識を扱える環境づくりとはコンテンツ業=印刷業の役割です。ただし「三位一体」ができて初めてそういった仕事ができるわけで、この点を印刷業の皆様が気付いていただくことに、われわれは期待しています。

−どのような役割でしょうか。

西村社長 新たな地域づくりを目指さなけれはなりません。そして、産業構造も新たな地域作りにふさわしいものでなけれはなりません。これまでも地域の情報産業として、大きな役割を果たしていたのが印刷業です。しかし目立たない存在でした。そこで印刷産業が地域情報産業の主軸へ変身するのです。従来の情報産業は、変革前の縦割りを支援してきたわけで、これは不得意です。横繋ぎといったコラボレーション型の情報化、知識社会作りとは今までにないものですから、新しいコラボレーション型の情報システムを、XMLを実装して行う、これをコンテンツ業=編集業=印刷業が進めていくのです。
 地方づくりとは自治体だけではできません、それを支える産業構造の両輪があって初めて生まれます。しかしこの新たな情報化のビジネスとは、小回りが必要なスモールビジネスです。ただ、一件の規模はスモールでも、その仕事は無限にあります。
 では、これまで地域を支援するスモールビジネスを取り組んできたのは誰でしょう。それは印刷業です。そのスモールビジネスの取り組みを、紙のみに拘らず、コンテンツという視点に広げ、それをネットワーク上で皆が活用できる知識に組み替えるのです。(その中からは印刷ももちろん生まれます)
 自治体もこれまでは縦割関係しか持っていませんでした。福祉部門、教育部門、建設部門、環境部門といったさまざまな人たちが集まり、課題を住民と一緒に議論し、行政活動が進められるようXMLを実装することが、地方分権からも大事なことなのです。

−地域に根差す印刷業がその役割を担うことができる。しかし、問題もあるのでは。

西村社長 今まで印刷業は見かけの編集、つまり縦の流れの中で人の目で見るための編集を行ってきました。しかし横連携を取る場合、この見た目のみでは、コンテンツのレイアウト変換に追われ無限地獄に陥ります。しかしXMLは、コンテンツの構造や意味内容を、タグを使ってコンピュータで管理しますから、データベースとして、互いを自由に結ぶことができます。つまり、コンテンツの情報の中身とレイアウトを分けることによって、一元管理でき、コンカレント(同時並行処理)が実現できます。このコンカレントという言葉が情報化で非常に重要な意味を持ちます。
 数値のコンカレントはすでにあったのですが、ドキュメントのコンカレントを可能にしたのがSGMLであり、ネットワークを使うことができるのがXMLです。

ビジネスを顕在化させる

−同時並行処理というのはどのようなことを差すのでしょうか。

寺渾取締役 私たちは「3コン」と言っていますが、一つには、知識情報=ドキュメントに焦点を当て、文脈という意味の「コンテクスト」を誰もがたどれるようにすること、そして同時並行的に齟齬なく処理するための「コンカレント」。最後の一つは、「コントリビュート」と言っています。情報化のキーワードとして「自律分散ネットワーク協調」という言葉があります。自律的に蓄えた分散型のデータベースを、ネットワークを通じて協調的に使用して生産性を上げる発想です。これを一般的に「ディストリビユート」と言われています。「ディストリビュート」とは分散を意味します。けれども最終的に分散だけでは意味がありません。そのネットワーク協調が重要なのです。「コントリビュート」は、分散したものを集中させ、何かの目的に貢献させるという「ディストリビュート」の反対の概念です。
 ですから「コンテクスト(文脈)」「コンカレント(同時並行)」「コントリビュート(貢献)」、これがXMLを考える上で大事な視点となります。情報は分散していて構いませんが、ある目的を成し遂げようとした場合、情報を集中して貢献させることができなければなりません。
 分散して存在する情報資源を集めて利活用しようとするとき、一番肝心なことは、それらの情報・知識の中身が最新状態に更新されている、ということです。もし改訂前のままの内容が混在してくると、全体として辻褄が合わなくなり、重大な誤りの発生に繋がってしまうからです。コンカレント(同時並行処理)の重要性とはここにあります。

−分散した情報をその目的に合わせて貢献させるのがXML技術というわけですね。

西村社長 つまり、地域のためにこのようなコンテソツシステムを生み出し、実装し、運用を支援することが必要です。これが地域づくりで一番重要な情報化の目的なのです。このような情報政策は、まだ地方自治体でほとんど行われていません。つまり、情報化の本当の意味がまだ理解されていないのです。
 中央から地方ではなく、地域がディストリビュートしながらも結ばれ、そこに知恵が創発できるというモデルが出てきたわけです。そのモデルのために印刷技術の次の情報技術が必要なのです。しかし、コンテンツを扱うという本質は変わりません。考え方を少しスイッチしたらできる位置に印刷業はいるのです。

−本当の意味でXMLを使うには何が必要なのでしょうか。

寺渾取締役 さきほど申しました「三位一体(考え方・ツール・研修)」といった新しいマネジメントの仕組みがなけれは、XMLは使えません。しかしまだ、印刷業も「物=印刷物」に拘っている面があります。われわれの講演の後で、「お客さんはそんなことしてほしいなどと言っていないよ」といわれます。当然、お客さんは言いません、それは答が分からないからです。印刷業が仕掛けて初めて気付き、ビジネスになるのです。
 物作りのXMLももちろんあります。タグ付けです。しかし、これはすぐに皆で真似をしますから競合になります。そして後はコストダウンの世界です。

−力業といった部分もあるけれども、それは今までと同じ道筋ですね。

寺澤取締役 知識社会を作るのであれば、新たに考えなければビジネスはできません。自治体などのお客さんは、業務を縦に処理しているだけですから、横の繋がりに因っているはずです。それが顕在化していないだけなのです。
 また、「どこかの印刷会社の事例を当てはめよう」としても無理です。つまりビジネスの基本はありますが、モノマネのモデルはないのです。だからこそ新しい産業を作るのです。横繋ぎのマネジメントを作り出さなけれはならないのです。そのときにXMLが必ず必要になります。

−印刷業がそういったことを取り組むには何が必要なのでしょうか。

西村社長 われわれは、自分達が本当にそれをやりたいのかという経営者の方の気持ちをお聞きしますね。自らも変わって新しいビジネスをやるために、今までのマネジメントを変えなければなりませんから,経営者が変わっていこうという意欲がないとできません。本質的なチェンジが必要なのです。単にすぐに金になる発想ではないチェンジも仕掛けも必要、種まきも必要です、相手の問題点が顕在化していないのですから。一緒になって勉強して芽を育てていくといったトップマネジメントがないとできないでしょうね。

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